伊藤計劃

まず

Hamony


2019年、アメリカ合衆国で発生した暴動をきっかけに、全世界で戦争と未知のウイルスが蔓延した「大災禍(ザ・メイルストロム)」によって従来の政府は瓦解し、新たな統治機構「生府」の下で高度な医療経済社会が築かれた。この社会体制では、そこに参加する人々自身が公共のリソースとみなされ、社会のために健康・幸福であることが義務とされた。「ザ・メイルストロム」から半世紀を経た頃、女子高生の霧慧(きりえ)トァンは、生府の掲げる健康・幸福社会を憎悪する御冷(みひえ)ミァハに共感し、友人の零下堂(れいかどう)キアンと共に自殺を図るが、途中でキアンが生府に密告したため失敗し、ミァハだけが死んでしまう。  13年後、WHO螺旋監察事務局の上級監察官として、生府の監視の行き届いていない辺境や紛争地帯で活動していたトァンは、ニジェールの戦場で生府が禁止する飲酒・喫煙を行っていたことが露見し、日本に送還されてしまう。日本に戻ったトァンはキアンと再会し昼食を共にするが、そこでキアンは「ごめんね、ミァハ」という言葉を残して自殺する。同時刻に世界中で6,582人の人々が一斉に自殺を図る「同時多発自殺事件」が発生しており、螺旋監察事務局が捜査に当たることになった。事件には死んだミァハが関係していると考えたトァンは、ミァハの遺体を引き取った冴紀ケイタの許を訪れた。そこでトァンは、自身の父親である霧慧ヌァザが人間の意志を操作する研究を行っていたことを聞かされ、ヌァザの研究仲間ガブリエル・エーディンがいるバグダッドに向かおうとする。その際トァンは、自殺直前のキアンがミァハと通話していたことを知り、ミァハが死んでいなかったことに驚愕する。  バグダッドに向かう前、トァンはインターポール捜査官エリヤ・ヴァシロフの接触を受け、人間の意志を操る「次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループ」という組織が生府上層部にあり、同時多発自殺事件に関与していることを聞かされる。トァンが空港に向かう途上、同時多発自殺事件を実行した犯人の犯行声明がテレビ放送され、「健康・幸福社会を壊すため、1週間以内に誰か1人を殺さなければ、世界中の人間を自殺させる」と宣言した。トァンは犯人の思考がミァハと同じであることに気づく。  バグダッドに到着したトァンはエーディンと面会、またその日の夜に「次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループ」の中心人物である父ヌァザと会う。ヌァザはトァンに、人間の意志を制御し「ザ・メイルストロム」の再来を防ぐ「ハーモニー・プログラム」の研究、及びその実験体としてミァハをバグダッドに連れて来たことを語った。また「ハーモニー・プログラム」には人間の意識が消滅してしまう副作用があり、同時多発自殺事件は「ハーモニー・プログラム」実行急進派のミァハが仕組んだことだと明かす。そこにミァハの仲間のヴァシロフが現れヌァザを拘束しようとするが、トァンと相打ちになって重傷を負い、トァンをかばったヌァザは死んでしまう。トァンはヴァシロフから「ミァハはチェチェンで待っている」と聞かされ、チェチェンに向かう。  犯行声明から1週間の期限を迎えた日、チェチェンの山奥にある旧ロシア軍基地でトァンに再会したミァハは、「生府の健康・幸福社会によって居場所を失った多くの人々が自殺している」として、「人間の意識を消滅させて世界を“わたし”から救う」と真意を語った。トァンはキアンとヌァザの復讐のため「ミァハの望む世界を実現させるけど、それを与えない」と伝えて、ミァハを射殺する。復讐を果たしたトァンは息絶える寸前のミァハと共に基地の外に出て、世界に別れを告げ「人間の意識=わたし」が消滅する。


次に、

屍者の帝国


19世紀末、ヴィクター・フランケンシュタインによって屍体の蘇生技術が確立され、屍者が世界の産業・文明を支える時代が到来していた。1878年ロンドン大学医学生ワトソンは、指導教官セワード教授とその師ヘルシング教授の紹介で、政府の諜報機関「ウォルシンガム機関」の指揮官「M」と面会し、機関の一員に迎えられ、アフガニスタンでの諜報活動を依頼される。その目的は、屍兵部隊と共にロシア軍を脱走してアフガン北方に「屍者の王国」を築いた男カラマーゾフの動向調査だった。 アフガニスタンに到着したワトソンは、インド副王のリットン卿から「人間と同じ俊敏さを持つ屍者」の存在を聞かされ、カラマーゾフが新型の屍者を創造していると考える。ワトソンは機関に所属するバーナビー大尉と記録専用屍者フライデー、ロシアから派遣された諜報員クラソートキンと共にアフガン奥地の「屍者の王国」を目指していた。その途中、ワトソンはアメリカの民間軍事会社「ピンカートン」メンバーのバトラーとハダリーに出会い、彼らから「アダムに気をつけろ」と忠告される。辿り着いた「屍者の王国」で彼らを待っていたカラマーゾフは、かつてヴィクターの創造した最初の屍者ザ・ワンが生存し、人造生命創造の秘密の記された「ヴィクターの手記」を所持していると告げ、ザ・ワンの追跡を依頼する。翌日、カラマーゾフザ・ワンの研究結果から得た技術で自らを屍者化し、「ヴィクターの手記」の存在を立証する。 1879年6月、ワトソンたちは「ヴィクターの手記」が流失した大日本帝国を訪れ、新型屍者の創造を行っていた大里化学に乗り込むが、そこでは新型屍者たちによって殺害された化学者と、新型屍者を操る脳があった。脳は「ザ・ワン」を名乗り、ワトソンに「ヴィクターの手記」が書かれたパンチカードを渡す。大里化学を後にしたワトソンはハダリーと再会し、「ピンカートン」代表のグラント前大統領と面会し、屍者を暴走させるテロ集団「スペクター」の正体を探るための協力を求められる。ワトソンはザ・ワンが関わっていると考え協力する。グラントと日本皇帝の会見の場で屍者が暴走したが、そこにザ・ワンは現れなかった。しかし、ワトソンは半屍者化した大村益次郎からザ・ワンの存在を聞かされ、また、ハダリーからアメリカにある組織「アララト」がザ・ワンと関わりがあることを知らされ、彼女たちと共にアメリカ合衆国に向かう。 1879年9月、サンフランシスコにある屍者解析機関ミリリオン社を訪れたワトソンたちは、プロヴィデンスから大量の通信が発信されている事実を掴み、プロヴィデンスにある「星の智慧派」の教会に乗り込み、そこでザ・ワンと出会う。しかし、そこに「ウォルシンガム機関」の下部組織「ルナ協会」の部隊が現れ、ザ・ワンやワトソンたちを拘束する。「ルナ協会」はザ・ワンやワトソンたちを連れノーチラス号に乗り込みイギリスに向かう。 ノーチラス号の中で、ザ・ワンはワトソンたちに屍者の真実を語り出す。ザ・ワンは「人間以外の全ての生命にも魂が存在する」「屍者化は人間に寄生する菌株が作用した結果」と語り、「人間の意思そのものが、菌株が作り出す幻想」と結論付けた。ザ・ワンは「菌株の不死化により人類は破滅する」と警告し、それを阻止するために解析機関の説得を試みようとしていた。ワトソンたちはザ・ワンの提案を受け入れノーチラス号を乗っ取り、イギリスの解析機関があるロンドン塔に乗り込む。 ロンドン塔に乗り込んだワトソンたちは解析機関に到達し、ザ・ワンは解析機関との対話を始め、かつてヴィクターに創造を拒否された自らの伴侶を実体化させる。そこにヘルシング教授が現れ解析機関のネットワークを遮断するが、ザ・ワンによって「屍者の言葉」を理解した解析機関は実体化し、全生命の屍者化を始める。ワトソンはザ・ワンを止めるため、カラマーゾフから譲られた「屍者の言葉」の結晶体をハダリーに渡し解析機関を破壊する。破壊に伴いロンドン塔は崩壊し、ザ・ワンは伴侶と共に姿を消す。 1881年、ワトソンは行方不明になっていたハダリーと再会し、自身の菌株に「屍者の言葉」を吹き込むように依頼する。ハダリーは「屍者の言葉」を吹き込み、ワトソンはそれまでの意思を失ってしまう。ワトソンとの旅で意思を手に入れたフライデーは、かつてのワトソンの意思を探すためロンドンの街中に向かう。

日本語

19世紀末、ヴィクター・フランケンシュタインによって屍体の蘇生技術が確立され、屍者が世界の産業・文明を支える時代が到来していた。1878年、ロンドン大学医学生ワトソンは、指導教官セワード教授とその師ヘルシング教授の紹介で、政府の諜報機関「ウォルシンガム機関」の指揮官「M」と面会し、機関の一員に迎えられ、アフガニスタンでの諜報活動を依頼される。その目的は、屍兵部隊と共にロシア軍を脱走してアフガン北方に「屍者の王国」を築いた男カラマーゾフの動向調査だった。 アフガニスタンに到着したワトソンは、インド副王のリットン卿から「人間と同じ俊敏さを持つ屍者」の存在を聞かされ、カラマーゾフが新型の屍者を創造していると考える。ワトソンは機関に所属するバーナビー大尉と記録専用屍者フライデー、ロシアから派遣された諜報員クラソートキンと共にアフガン奥地の「屍者の王国」を目指していた。その途中、ワトソンはアメリカの民間軍事会社「ピンカートン」メンバーのバトラーとハダリーに出会い、彼らから「アダムに気をつけろ」と忠告される。辿り着いた「屍者の王国」で彼らを待っていたカラマーゾフは、かつてヴィクターの創造した最初の屍者ザ・ワンが生存し、人造生命創造の秘密の記された「ヴィクターの手記」を所持していると告げ、ザ・ワンの追跡を依頼する。翌日、カラマーゾフザ・ワンの研究結果から得た技術で自らを屍者化し、「ヴィクターの手記」の存在を立証する。 18796月、ワトソンたちは「ヴィクターの手記」が流失した大日本帝国を訪れ、新型屍者の創造を行っていた大里化学に乗り込むが、そこでは新型屍者たちによって殺害された化学者と、新型屍者を操る脳があった。脳は「ザ・ワン」を名乗り、ワトソンに「ヴィクターの手記」が書かれたパンチカードを渡す。大里化学を後にしたワトソンはハダリーと再会し、「ピンカートン」代表のグラント前大統領と面会し、屍者を暴走させるテロ集団「スペクター」の正体を探るための協力を求められる。ワトソンはザ・ワンが関わっていると考え協力する。グラントと日本皇帝の会見の場で屍者が暴走したが、そこにザ・ワンは現れなかった。しかし、ワトソンは半屍者化した大村益次郎からザ・ワンの存在を聞かされ、また、ハダリーからアメリカにある組織「アララト」がザ・ワンと関わりがあることを知らされ、彼女たちと共にアメリカ合衆国に向かう。 18799月、サンフランシスコにある屍者解析機関ミリリオン社を訪れたワトソンたちは、プロヴィデンスから大量の通信が発信されている事実を掴み、プロヴィデンスにある「星の智慧派」の教会に乗り込み、そこでザ・ワンと出会う。しかし、そこに「ウォルシンガム機関」の下部組織「ルナ協会」の部隊が現れ、ザ・ワンやワトソンたちを拘束する。「ルナ協会」はザ・ワンやワトソンたちを連れノーチラス号に乗り込みイギリスに向かう。 ノーチラス号の中で、ザ・ワンはワトソンたちに屍者の真実を語り出す。ザ・ワンは「人間以外の全ての生命にも魂が存在する」「屍者化は人間に寄生する菌株が作用した結果」と語り、「人間の意思そのものが、菌株が作り出す幻想」と結論付けた。ザ・ワンは「菌株の不死化により人類は破滅する」と警告し、それを阻止するために解析機関の説得を試みようとしていた。ワトソンたちはザ・ワンの提案を受け入れノーチラス号を乗っ取り、イギリスの解析機関があるロンドン塔に乗り込む。 ロンドン塔に乗り込んだワトソンたちは解析機関に到達し、ザ・ワンは解析機関との対話を始め、かつてヴィクターに創造を拒否された自らの伴侶を実体化させる。そこにヘルシング教授が現れ解析機関のネットワークを遮断するが、ザ・ワンによって「屍者の言葉」を理解した解析機関は実体化し、全生命の屍者化を始める。ワトソンはザ・ワンを止めるため、カラマーゾフから譲られた「屍者の言葉」の結晶体をハダリーに渡し解析機関を破壊する。破壊に伴いロンドン塔は崩壊し、ザ・ワンは伴侶と共に姿を消す。 1881年、ワトソンは行方不明になっていたハダリーと再会し、自身の菌株に「屍者の言葉」を吹き込むように依頼する。ハダリーは「屍者の言葉」を吹き込み、ワトソンはそれまでの意思を失ってしまう。ワトソンとの旅で意思を手に入れたフライデーは、かつてのワトソンの意思を探すためロンドンの街中に向かう。